mintsu's blog

かがみの孤城 辻村深月著 感想・レビュー 読書感想文

2019-07-14 21:00:00
書評

かがみの孤城 辻村深月著 感想・レビュー 読書感想文

2018年本屋大賞受賞作『かがみの孤城』(辻村深月 著)を読んだので感想、レビューを書いていきます。ネタバレもあるので注意してください。

2018年の本屋大賞受賞作となっていて、気になっていたため読んでみました。

ジャンルとしては、ファンタジーミステリー
ページ数: 532ページ

それなりにページ数はありますが、会話が多かったり非常に読みやすい文体でした。
私の場合映像が浮かんでくるようで、本を読んでいるのに、アニメを見ている感じで読み進めることができました。

目次

あらすじ・概要

主人公は中学1年生になったばかりの女の子、安西こころ。

同じクラスの真田さんに嫌がらせを受け、学校にいけなくなってしまう。

部屋に閉じこもる日々が続く、そんなある日、こころの部屋の鏡が光りだす。
光った鏡に手を伸ばすと、そのまま鏡の中に吸い込まれる。

こころが目を覚ますと、そこには縁日で売られているような狼の面をつけた女の子"オオカミさま"が立っている。
そして、西洋の童話で見るような城が建っていた。

「おっめでとうございまーす!」
「安西こころさん。あなたはめでたくこの城のゲストに招かれました!!」
と狼の少女がいう。

こころの他にも中学生の子どもたちがいる。こころを入れて全部で7人。
そしてこの城はどうやら願うのかなう城のようだ。

オオカミさまから次のことを説明される

  • この城の奥には誰も入れない"願いの部屋"がある。入れるのは一人だけ、願いが叶うのは一人だけ
  • 願いの部屋に入る鍵探しをしてもらう。見つけたヤツ一人だけが扉を開けて願いを叶える権利がある
  • 城が開くのは、3月30日まで
  • 願いの部屋が開いた時点で、ゲームはおしまい。3月30日を待たずして、この城は閉じる
  • 城が開くのは日本時間の朝9時から夕方5時まで
  • ルールを守らなければペナルティーがある。狼に食われる
  • ペナルティは連帯責任。その日、城に来ていた他のメンバーもペナルティを受ける

城に呼ばれたのは7人
こころ: 中学1年生
アキ: ポニーテールの女の子。中学3年生
リオン: イケメンの男の子。中学1年生
フウカ: 眼鏡を掛けた、声優声の女の子。中学2年生
マサムネ: ゲームをいじる男子。中学2年生
スバル: ハリーポッターのロン似の男の子。中学3年生
ウレシノ: 小太りの男の子。中学1年生

この7人には共通点があった。それは何らかの事情で学校に行っていないということ。

どうして、自分たちが呼ばれたのか? 城の目的は?
様々な事情を抱える7人の中学生の不思議な生活が始まる。

感想 (ネタバレあり)

リアルな描写、共感できる箇所が多い

この作品は、鏡の中に吸い込まれて、その中の城で過ごす。という一見ファンタジーなものだが、城に招待された中学生7人は現実世界の悩み、問題を持っている。
そんな現実世界の問題であるからこそ、共感できる部分が多い。

物語は、主人公である、安西こころの目線で描かれる。
嫌がらせであったり、それに対する周りの態度、リアルな描写で、ところどころにまるで自分が体験しているかのような気分にさせられることもあるし、似たような経験を体験した人はそれを思い出すだろう。

例えば、こころが久々に外にでるシーン。

ドキドキしながら、玄関のドア、を押す
暗い玄関に、まばゆい夏の光が入り込んできて、ああ、と目を細める。空に、黄色い太陽が出ていた。鳥が飛んでいる。むっとする、アスファルトの熱が足元から立ち上がってくる。
外だ。
久々の、外の世界だ。
吸い込む空気がみずみずしく、少しも尖って感じられないことに、それだけで安堵する。蝉の声が響く向こうで、犬を散歩させる人や子供の声がした。
暑いけど、むしろ爽やかにすら感じられる天気だった。
心はそっと、門の外に出た。

こんな何気ない、ただ外に出るだけの場面でも、どきどき感の共感や自分の体験を思い出させる。

他にも、外で自分と同じ学校の生徒を見つけたときについ、うつむいてしまう。自分のことを悪く言ってるんじゃないか、そんなふうに思ってしまうところも共感できた。

中でも一番衝撃的だったのは、こころが不登校になった決定的な出来事である、真田美織達が家まできて、庭にまで入ってきてこころを追い詰める。 恐怖心がひしひしと伝わってきた。

謎解き

この作品を読んでいると、様々な伏線や謎が散りばめられている。

読んでいるうちに、こういうこと何じゃないかと予想がつくところもあれば、こんなところでもつながっていたのか!とあとからはっと気づくところもある。その時のパズルのピースがハマっていくような心地よさ、がこの作品の面白さでもあると思います。

物語の途中で7人の中学生は、同じ中学校に通う(はず)だった生徒だということが発覚する。
三学期の始まる最初の日、みんな同じ日に登校して会おうと。しかし会えなかった謎。

こころ、ウレシノ、フウカ、マサムネを理解し、味方になってくれるフリースクールの喜多嶋先生。

この城はなんの城なのか?
電気は来ているが、水道やガスは使えない。

オオカミさまは一体何者なのか?

こういった謎が後半から一気に明かされていく。後半からは伏線回収の流れが面白すぎて一気に読むことができた。

読了後のネタバレだらけの感想

会えなかった理由、現実世界でのつながり

マサムネのお願いで三学期の始まる日、1月10日に登校して会おうと提案。
しかし、そこで会うことはできなかった、それどころか、その日は始業式じゃなかったり、そもそも休日であったりそれぞれの言っていることが違う。 みんな同じ日に登校して会えなかった理由。それはパラレルワールドではないかとマサムネが仮説を立てる。
しかし、実際にはパラレルワールドではなく、7人の中学生はそれぞれ、別の時間軸から集められたいたということが終盤あきらかになる。
実際には、パラレルワールドではなく、時間軸では?というのは読み進めていく中で予想がつくが、それはそれで予想が当たったということで楽しく読むことができた。
そしてこの時間軸という設定だからこそ、彼らの現実世界でのつながりが見えてくる。

例えば、エピローグで実は喜多嶋先生はアキで有ることが明かされる。
これは物語を読んでる途中では気づけなかったが、エピローグで明かされたあとに、喜多嶋先生がアキであるということは、1月10日に誰にも会えなかった。ということはなく、本当はアキとは会えていたんだと。
マサムネもこころもウレシノも1月10日に喜多嶋先生に会うことができて助けられている。
こんなところでつながっていたのかとはっとした。

他にも、城が閉じる最後の日にスバルがマサムネににこんなことを言う

「目指すよ。今から。"ゲーム作る人"。マサムネが『このゲーム作ったの、オレの友達』ってちゃんと言えるように」
そして、終盤で明かされるスバルの本名は 長久 昴 。この名前が実は作中に出てくる場面がある。
マサムネがパラレルワールドの説明のときに『ゲートワールド』というゲームの例を挙げる。
「あん? 知ってんだろ? 『ゲートワールド』。今売れてるプロフェッサー・ナガヒサのゲーム。まさか知らねえの?」
「ナガヒサ・ロクレンだよ! ゲーム会社ユニゾンの天才ディレクター」

ここで出てくる、ナガヒサ・ロクレンがスバルなのだと気づいたときもハッとした。
ちなみに、ロクレンは昴の異称で六連星といわれるところから、取っているものだと思われます。

このように登場人物同士のつながりが、終盤、読了後に見えてくる。
他にもないか、あのときはこうだったんじゃないかと読み終わってからも、読み返したくなる。

オオカミさまの正体

オオカミさまの正体は、実はリオンの姉「ミオ」であると、終盤明かされる。
そしてこの城も彼女が好きだったオモチャのドールハウスを似せて作り上げた城。
そのドールハウスは豆電球の明かりをつけるために、電気だけは通っている。だからこの城も電気は通っているが、水道や、火は使えなかったのだ。

私は、オオカミさまの正体についてはあんまり考えていなかった。
こういう本をあまり読まないからかもしれないが、ファンタジーの世界でただ単にオオカミさまというゲームマスターがいる。それだけのことかと思っていた。
しかしこの作品は、オオカミさまをファンタジーで終わらせずに、しっかりとしたなぜ城ができたのか、城の目的など納得できる理由付けがあってはっとした。

オオカミさまもファンタジーの存在ではなく、リオンの姉として見ていくと、そこからつながりが見えてくる。

クリスマスが近づいてきたときに、クリスマスパーティをしようと言うリオン、そしてケーキはリオンが用意すると。
そしてケーキを切り分けるときに、オオカミさまも呼ぼうという。
そしてケーキと一緒に「家にあったから、よかったらもらって」と包をオオカミ様に渡す。
オオカミさまにお母さんの作ったケーキを食べてほしくて呼んだのではないか、そんなふうにも読み取れる。
リオンはこのときからオオカミさまの正体に気づいていたのではないか。
もしかしたら、城に全員が集まった最初の日。そのときからリオンは察していたのかもしれない。
渡した包の正体は明らかにされおらず、読了後も気になっている点です。

さいごに

はじめは、ちょっとページ量の多さに読めるか不安でしたが、読んでみたらスイスイ読めるし、どんどん感情移入できました。
読み進めるうちにだんだん登場人物の事がわかってくる。そしてみんないい子だし、かわいい。こんなところも読みやすさのひとつでもあるかなと思いました。

そして、後半からは怒涛の伏線回収。パズルのピースがハマっていくかのような快感。
前述したとおり、読了後もあのときはこうだったんじゃないか、読み終わってからのつながりがいろいろ見えてくる。
そしてもう一度読み返したくなる。そんな作品でした。

物語の登場人物はみんな中学生ということもあって、中学生の方や学生の方にはすごい読みやすい本かなと思います。
これからの時期読書感想文などにも、おすすめできる本ですね。

こんな方におすすめ

  • ミステリー小説を読んでみたいと思ってる方
  • ファンタジーが好きな方
  • 中学生、高校生、学生の方
  • 中学生くらいの子を持つ親世代の方

文庫化・映画化・漫画化

残念ながら、まだ文庫化・映画化の話は無いようです。

『かがみの孤城』の 発売日は2017年05月ですので、すでに2年経過しているので、文庫化はそろそろされそうな気はしますね。

漫画化

実は漫画に関しては2019年 6月からウルトラジャンプにて連載されているようです。